◎めぐりあう時間たち
巨匠ビスコンティーの代表作でもある『ベニスに死す』の主役を演じたダーク・ボガードは、
社会的地位が高く教養を自然に身につけた階層に育ったのであるが、
とあるアメリカ人女性との往復書簡の中で、ヴァージニア・ウルフが、自殺したときの様子を書いている。
「くたびれたカーディガンを着、くたっとした麦藁帽をかぶっていて、ぼくらはみな、あの人は魔女だと思った。彼女が投身自殺したとき、カーディガンのポケットに石を詰めて重石にし、川に沈んだという。僕は奇妙に心打たれました。二つのポケットいっぱいの石…何という哀しい絶望でしょう」
また、日本では、神谷美重子さんが、彼女ヴァージニア・ウルフの研究論文を書いている。
神谷美恵子さんの詩
光うしないたるい眼(まなこ)うつろに
肢うしないたる体になわれて
診察台にどさりと載せられたるライ者よ、
私はあなたの前に頭を垂れる。
あなたは黙っている。
かすかに微笑んでさえいる。
ああしかし、その沈黙は、微笑みは
長い戦の後に勝ち得られたるものだ。
運命とすれすれに生きているあなたよ、
のがれようとて放さぬその鉄の手に
朝も昼も夜もつかまえられて、
十年、二十年と生きて来たあなたよ。
何故私たちでなくてあなたが?
あなたは代わって下さったのだ、
代わって人としてあらゆるものを奪われ、
地獄の責め苦を悩みぬいてくださったのだ。
許してください、らい者よ。
浅く、かろく、生の海の面に浮かび漂うて、
そこはかとなく神だの霊魂だのと
きこえよき言葉をあやつる私たちを。
かく心に叫びて首たるれば、
あなたはただ黙っている。
そして傷ましくもゆがめられたる顔に、
かすかなる微笑さえ浮かべている。
◎東京ソナタ
エンディングで佐々木健二役を演じた井之脇海君が弾く、クロード・ドビュッシーの1890年の作品「月の光」でした。井之脇君はやはり、ピアノをやっていたという経験はあるようで、撮影前に一ヵ月半ほど練習。
実際にピアノを演奏していたのが、高尾奏之介君という13歳のピアニスト。
◎幸福のレシピ
『幸せのレシピ』(原題: No Reservations)は、2007年のアメリカ映画である。スコット・ヒックス監督作品。2001年のドイツ映画『マーサの幸せレシピ』のリメイク作品。
以前ブログにもアップした、ユーガータメールと同じく、良き作品は、リメイクが多いですね。
俳優とディテールのみ変えて、物語は同じで、十分に楽しめます。さらなる飛翔も。
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彼女が投身自殺したとき、カーディガンのポケットに石を詰めて重石にし、川に沈んだという。
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