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Channel:   心のサプリ (絵のある生活) 
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トルストイ  ラストステーション 最後の旅

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 終着駅 トルストイ最後の旅 [DVD]/ヘレン・ミレン,クリストファー・プラマー,ジェームズ・マカヴォイ

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小林秀雄氏と正宗白鳥氏の対談を若い頃に読んでいて、トルストイが旅先の駅でひっそりと死んだことをふたりが熱く論じていたことを思い出す。
 もう、詳しく覚えてもいないし、その本自体もどこに迷い込んだのか膨大なる書庫をいまさら探す気にはなれません。
 
 確か、小林秀雄氏が「芸術に没頭するあまり気がついたら自分の生活を犠牲にしてしまった」ということは当然のことで、トルストイの死をそのような観点から観ていたと思う。 
 だから生活を犠牲にしないような芸術はホンモノではない? という観点か。
 いや、朝からは晩まで、書きたいことに必死で、気がついたら生活のことを何も気をつけていなかったということだろう。
 林芙美子氏が小説を書いて書いて、気がつくと、風呂に三日も入るのを忘れたということと同じか。

 有名な安吾のこの写真を観れば、もう生活ははたして、あるのだろうか?
生活とはなんだろうか?


  心のサプリ (本のある生活) 

 私は「生活とは人を磨く塩」だと思っている。
  しかしながら、創作が続くと、もう夜も昼もなくなって、食もなんでもよくなり、風呂も忘れ、つまり衣食住を忘れて作品に没頭するという気持ちだけはよくわかる。


 男性的な原理はそのような観念に走るとものすごい力を発揮する。
 でも、女性は、この映画の妻のように、実にしっかりと現実を見据えて、生活をしていることがわかる。
 やはり、生活はもともとは、女性のものなのかもしれない。
 身のまわりのものについてのこまごまとしたことは、女性に男性はとてもとても、かなわない。

 うちの妹はよく言うのだが、
 「旦那は確かに、料理が上手いが、あれだけ高い素材を使えばおいしいはず」と旦那に手厳しい。^^

冷蔵庫にあるあまりりものの素材で、美味いものをつくることが大事、それはそのとうり。

 だが、世界遺産にも登録されたと言う?フランスのあのフランス式伝統料理は、やはり、貴族のあくなき「美食への夢・観念」から生まれたものだ。
 

  
 自分で魚を釣りに行き、美味いものにはいくらでも金を使う。これもまたひとつの思想。
 冷蔵庫の余り物を上手に処理しごちそうに仕上げて家族を喜ばせる。これもまたひとつの思想。


  うーん。むずかしい。
  



 正宗氏は、徹底した現実家らしく、「人類を愛せても自分の妻だけは愛せなかった」ということはなんのことはない、彼は現実に負けているのではないかという指摘だったと記憶している。
 (どうも思い出せないが)


 まあ、とにかく、^^、当時の文壇では、トルストイの死はそれだけショックを与えたということらしい。


  私はトルストイの良き読者でもないし、どちらかというと、彼の民話や童話のほうに興味があるのだが、少し伝記などをかじってみると、かなりの思想家であることはまちがいないし、簡単に理解できるような作家ではないと思う。


 かつて、三島由紀夫氏はひとりの作家のひとつの言葉や思想の裏には何百という言葉や思想の反古がたくさん積まれていると書いたが、そのとうり。
  トルストイを簡単に、白樺派かなんてくくって、安心している人の気がしれない。

  彼が最後に人類愛にたどりつくまでの話。
 映画だから、じつにわかりやすく、描かれている。

  妻のソフィアだったか。彼女は、トルストイは若い頃は女を漁っていた・・と笑いながら言う。
 要は、実際の人間としてのトルストイを肌で知っているからの言葉。


  まさに金子光晴のおじいちゃんのように、トルストイは、
 「あのころ、つきあった、おんなたちは、いまごろ何をしているのだろう」と
  ひとり、懐かしく、過去をふりむくような男なのである。

  そして、妻のソフィアと、くだらない言葉を連発しながら、笑いこけ、抱き合うところは、
 まるで、大きな子供。

  その分、私は彼のことを好きになった。

  この人は人間なんだ・・・すさまじいくらいに、人間臭い。
  ・・・・・・・・・



  世間の名声がふくらむにつれ、金と信者がとりまき、まさに「トルストイ教」みたいなものができてくる。

  皆が彼を偶像化しはじめる。

  彼の著作権を狙って、皆が悪戦苦闘し、悩み、苦悶する。

  私もこの著作権問題で、妻のソフィアと一番弟子とが、戦うということをこの映画を観て初めて知った。


  ワレンチンという実在の若者かどうかはわからないが、このトルストイ村で出会った美しい娘と、恋愛をするうちに、夫婦という概念や、愛という概念を、一度たたきこわして、再生するというところがみどころ。


 この夫婦の、すさまじい夫婦喧嘩を観ていて、黒澤明監督の「どですかでん」だったか、思い出した。
 この「どですかでん」でも、凄まじい夫婦喧嘩がでてくる。

 もう、離婚したほうがいいんじやないかというくらいの激しい喧嘩。


  ところが、この「トルストイ 最後の旅」も「どですかでん」も、もっと深いところから、人間を観ている。


 マザー・テレサは、「愛の反対は無関心だ」と言ったが、その意味はよく理解できると思う。
 つまり、憎しみというのは愛の反対ではなく、憎しみと愛は顔がまったく違う双子みたいなもんだと思う。



 私はバツ2なので、人のことをとやかく言うことはできないが、^^
 いろいろ、考えさせられた。



  観念と存在。
 男と女。


  この問題は、永遠の課題なんだろう。








マイケル・ホフマン
脚本 マイケル・ホフマン
製作 クリス・カーリング
イェンス・モイラー
ボニー・アーノルド
製作総指揮 アンドレイ・コンチャロフスキー
フィル・ロバートソン
ジュディ・トッセル
ロビー・リトル
出演者 クリストファー・プラマー
ヘレン・ミレン
ジェームズ・マカヴォイ
音楽 セルゲイ・イェフトゥシェンコ
 終着駅 トルストイの死の謎/ジェイ パリーニ

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